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大阪から関東に左遷されたあほんだらの自転車旅行記

よつばとの魅力について語る

 

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よつばとはじめに

 

自分が五歳の時、その目には世界はどう映っていただろう?

 

無機質なアスファルトを踏みしだく際も、電子媒体の情報に目を通し快楽を得るのではなく、白い線の上のみを歩いて帰ることにささやかな幸せを見出していた。

 

今日の晩御飯の楽しみ、はじめてビュッフェに行き「これ全部食べていいのか!」という感動。割った花瓶をどう言い訳するかに右脳をフルで活用し、結局ばれて怒られた思い出。近所のコンビニにおつかいを頼まれただけでそれはインディージョーンズをも彷彿とさせる大冒険であった。

 

子供には世界が全て新鮮に見える。なぜなら私たちがうんざりするほど繰り返してきた生活動作や娯楽も、子供にとってはそれが「はじめて」だからだ。

 

全てが「初体験」の子供には邪念や先入観がない。だから全てのことを惰性ではなく全力で取り組み楽しむことが出来る。そこに迷いがない。私が最後に邪念も見返りも考えず全力で何かに取り組んだのはいつだろうか、何歳まで遡ることになるだろうか。

 

それなりに両親には愛とお金と労力をかけさせたと自負している。

たくさん褒められたくさん怒られたくさん殴られた。しかしドライブレコードのように常に感じた記憶を記録していたらHDがパンクしてしまう。なので記憶は薄く引き伸ばされ新しいものを吸収する度に古い思い出は剥がれ落ちるように人間は作られている。

過去にパルケースパーニャーに家族でいった頃のセピア色に染まった写真を見せられたが、何一つ思い出すことはできなかった。きっと楽しかったのだろうが写真で見る以上の情報は得られなかった。

 

そんな抜け落ちた部分を外付けHDのようなもので「子供の感性」のまま俯瞰で可視化できればどれほどいいだろう。

それを叶えてくれる唯一無二のコミックがこの世には存在する。

 

 

当コミックの主人公「よつば」と抜け落ちた思い出を取り戻しに帰ろう。

 

 

よつばと概要

 

よつばとは『月刊コミック電撃大王』(アスキー・メディアワークス(旧メディアワークス))において2003年3月から連載されている「あずまきよひこ」による漫画である。

単行本は現在14巻が刊行されており、累計1300万部を突破している。

受賞歴として2006年、第10回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞。2016年、第20回手塚治虫文化賞マンガ大賞Amazonランキング大賞2016上半期のコミック部門第1位受賞。

現在13か国語に翻訳されており、国外23カ国で100万部を突破。

英語表記は『YOTSUBA&!』。

 

特徴としては単行本新刊が鬼のように遅く、電撃大王での連載も不定期でサボるというよりはゲリラで出没するという表現がしっくりくる程きまぐれである。(大体三か月で1話ペース)

よつばと知ってる?」と聞いて「知らない」と返ってきた際、絵を見せると「あー見たことある」と返されダンボーを見せると「これってこの作品のキャラだったの!?」と驚かれる。

恐らく何となく本屋のコミックコーナーで見たことある程度の認識が多い。

一般人には絵だけで「オタク系の読み物」と邪険に扱われる。

 

一応聖地が「あずまきよひこ」の生誕地である兵庫県高砂市とされているが、明確にはされていない。ただ酷似している部分は多く、雰囲気を味わう程度でも足を運んでみる価値はある。

 

 

よつばと作品としての特徴

カテゴライズとしてはギャグマンガと日常系の境界あたりに位置すると思われる。また1巻2巻辺りは前作の「あずまんが大王」の毛色を色濃く受け継いだギャグマンガとしての側面が強いが、徐々にグラデーションで描き方や作画内容等に変化が見られ日常系の中にギャグが含まれるような作風になりつつある。

主に世間で評価が高いのが後者であるが、「あずまんが」ファンの古参からはギャグテイストの方が好きだったという声が強い。

物語に最大の特徴として、大きな事件劇的な展開も起承転結のドラマツルギーに頼ることもなく、ただ淡々とよつば達の幸福な日常を移すだけというものが挙げられる。

そこには爆発もなく人間関係がこじれることもなく悲劇もなく、ただひたすら幸福な日々が読者の目の前で繰り広げられる。

コーヒーをつくったり、ヨガに行ってみたり、キャンプに行ったり、牧場に行ったり、どんぐりでブレスレットを造ったりなど、ほぼ1話完結で話もほとんど進展しない。そこには露骨に泣かせに行こうといった演出やどんでん返しも存在しない。

しかし、そんな起承転結やどんでん返しもないエピソードで読者を引き込めるのには理由がある。

よつばとは実写化はおろか、アニメ化もノベライズも100%無理であると私は確信している。この作品は漫画であるから輝く、著者のあずまきよひこ氏も「アニメ化はしなくていい」という節の声明を出している。

そんなよつばとの漫画でしか表現できない世界、そのメゾットを以下にまとめてみた

 

1・その場に「いる」と思わせる絶妙なアングルと立体感。

 

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上記画像がわかりやすい。左のコマ、これは我々読者も大人の高さの目線でその場に同席しているような位置からの俯瞰となっている。そして右の見上げているコマは大人の高さから(この場合だとやんだととーちゃん)がよつばを見下ろしているときの主観となっている。

この絶妙なアングルによって我々はそばからよつばの成長と体験を見守っているような感覚にふけることが出来る。

重要なのはカメラアングルがよつばの主観と重なることが少ないということだ。よつばを俯瞰からとらえ続けることで、2度と戻れない子供の頃の自分とよつばを投影させ哀愁をかきたてる。よつばとを読む際は是非アングルを意識してほしい。

 

2.記号的なキャラクターの絵とリアルな背景描写

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よつばというキャラクターは喜怒哀楽を前面に押し出す、「素直なこどもの典型例」である、驚いたとき、悲しいとき、うれしいとき、今よつばがどんな気持ちかというのが読者にストーレートに伝わる。それはあえて簡素化して描かれた記号的な表情によるものだ。目がぐるぐる回ったり点になったり、そこにリアル感は無いがだからこそ読者としては感情を読み取りやすい。そしてよつばは思っていることをハッキリと言う。これが違和感なく浸透しているため、表情では伝わりづらい部分があったとて補完することが可能である。

それに対比するように背景は非常に精密に描かれている。また登場するお店や商品なども実在するものをその名前のまま完璧に描いているので尚リアル感が増す。(万代・イオン・どん兵衛SHIMANOプリキュアなど)

それに加え1でも説明したカメラアングルで見せてくれるため臨場感が最大限に発揮される。

キャラクター感の強い人物絵とリアルな背景描写この相反する2つのものの調和が我々読者を物語に引き込ませてくれる。そこに違和感がないのは実写をトレスしたものではなく、あくまで絵としてリアルな背景を「描いている」からであろう。

 

 

3.潤沢なコマの使い方

 

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他の漫画なら1コマで終わらせる、ないしはそもそもコマを割かないような描写に丸1ページを要し丁寧に描写するのがよつばとである。

故に「手のみ」「テディベアの顔面アップ」「同じ表情の寸分変わらない絵が3コマ続く」ということが日常茶飯であるわけだが、それこそが真骨頂なのだ。

ではなぜそういったコマの割方をするのか。それはよつばとが我々に与える感情にヒントが隠されている。

よつばとで得られるのは平凡な日常そのものが世界との新鮮な出会いの連続に他ならなかった子供時代の追憶体験である。つまりよつばにとっては行動1つ1つが新鮮であり初体験なのだ。例えそれが我々にとっては意味のないコマ割りに思えてもそのコマの1つ1つがよつばにとって思い出となる。

わざと割っているのではなくてよつばの世界を丁寧に描写していれば自然とそのような表現になったのではないかというのが私の考察だ。

 

4.よつばを取り巻くキャラクター

漫画的手法について解説してきたが、キャラクターも無視するには惜しい。よつばもさることながら、とーちゃん、やんだ、じゃんぼ、ふーか、えな、あさぎ、とらこ、みうら等、大人からこどもまで、よつばのちょっとおねえさんや意地悪なお兄さんなどよつばを取り巻く人間模様にも目を向けてほしい。その三者三様なオトナ達のよつばに対する愛情や優しさがより物語を引き立てている。

 

 

5.吹き出しとは別に添えられる擬音や独り言

 

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注意深く読んでいると、格段にほかの漫画に対して吹き出し以外で話している独り言や効果音や擬音が多いことがわかる。しかし、これらは普通に読んでいても気づかない、それほど違和感なく知らずのうちに読まされていることを知る。

何故吹き出しで書かずにそういった手法で描くのか。

口酸っぱく申し上げるが、よつばとの魅力は何も起こらない日常を丁寧に描写することである。その何もない中でよつばやオトナの一挙手一投足一言一句に価値があるのだ。

なので通常の漫画ではいちいち描いてられず端折られる部分にもフォーカスを充てている。その代表格が、吹き出しにするほどではないが場面を丁寧に描写するには書く必要のある言動だと思う。

なので本来は「ある」ものを余すことなく書いているという表現がしっくりくる。たまに吹き出しで長セリフを話すが、その際にもよくこの手法が用いられる。吹き出しで話す内容は読者に読んで理解してもらいたい内容で、その場の雰囲気を掻き立てるのが擬音やぼそっと言ったこと。

またそれとは別に吹き出しで背景が損なわれることの回避ではないかと考える。

 

 

6.よつばの成長

よつばは回を重ねることに少しずつだが学習し成長している。

色濃く表れているのは最新14巻である。いままでは「こども」の観点でのよつばの描き方が強かったが、プリンセスに憧れてドレスを身にまとったりなど女の子としての自我が芽生えつつある。ほかにもよっつばが自ら進んで「学習する」エピソードは多くちりばめられている。

その成長を見るのが醍醐味でもあるが、少し寂しいという意見も多い。いつまでも子供ではいられない。人はオトナになっていくんだなという。自分の幼少期の自己投影が肝となっているこの作品においてのよつばのオトナ化はジレンマを抱えている。

そもそもそこまで感情移入させるこの作品の凄さに驚きだが。

 

 

 

よつばとキャッチコピー

どれもセンス良く作品の雰囲気を引き出している。

個人的なお気に入りは「いつでも今日が、いちばん楽しい日。」だ。

子どもは未来でも過去でもなく今に生きている。

キャッチコピーは単行本の帯に記されており、よつばとファンとしては内容もあることながらこのキャッチコピーも楽しみの1つとなっている。

 

よつばと!1巻「いつでも今日が、いちばん楽しい日。」

よつばと!2巻「ただ、ここにいるだけのしあわせ。」

よつばと!3巻「どこかで見た、どこにもない場所へ。」

よつばと!4巻「いつかおとなになるこども。と、かつてこどもだったおとな。かわらないまいにち。」

よつばと!5巻「おわらない夏のおわり。」

よつばと!6巻「今日も世界はひろがっていく。」

よつばと!7巻「こどもが走れば、おとなも走る。」

よつばと!8巻「平日、休日、祭日。毎日。」

よつばと!9巻「変わっていく季節、変わらない毎日。」

よつばと!10巻 「毎日という宝箱を、今日もあける。

よつばと!11巻 「世界は見つけられるのを待っている。」

よつばと!12巻 「目の前には実物大の世界地図。」

よつばと!13巻 「そして今日も、日々は続く。」

よつばと!14巻 「世界VS子供」

 

 

よつばとダンボーについて

世間的な認知度で言えば本家よつばとをもしのぐであろう1コンテンツとして地位を確立した

ダンボー」モバイルバッテリーやグッズなど様ざまな商品化が舞い込んだ。

▲の口に光る眼、洗練されたデザイン。そしてダンボーというネーミング。全てが抜けなく受け入れられたダンボーだが、本作にはたった2話しか登場しない。(5巻よつばとダンボー、10巻よつばとさいかいの2つのみ)

もともと本物のロボットでもなんでもなく、みうらが自由研究の題材として段ボールで中に入れるロボットのオブジェとして制作したものだ。本物のロボットだと信じたよつばの夢を壊さないために必死にみうらとえなはダンボーを本物のロボットだと見せようとするという話だ。つまりダンボー=みうらである。

ダンボーの作中での設定としては「よこのスイッチで目が光る」「100円を入れることで動く(「私はお金で動く」というセリフはあまりにも有名)」

フィギュア化された際は忠実にスイッチと目が光るギミックが搭載され、お金を入れるところまで再現されていた。

 

よつばと個人的傑作シーン

個人的によつばとで気に入っている話をまとめた。もし「よつばと」が気になるが全巻読むのはちょっと・・といった方は下記の話だけでも読んでみてほしい。

 

10巻「よつばとホットケーキ」

概要

よつばは子供で当然ホットケーキ作りなんて初めてである。故に粉をこぼしたり、牛乳を入れすぎたり、最後は形がグチャグチャになってうまくいかなかった。

2枚目こちらも焦げて卵焼きのように、同席していた「やんだ」にやーい下手くそとからかわれ(この場合悪意のない嘲笑)よつばは1度は「できない」と匙を投げる。が、とーちゃんが「俺はホットケーキ大好きだから何回失敗しても全部食べる、だから作れ」と諭し、ふたたびホットケーキ作りへ。そこから何回か失敗しコツを掴んだよつばは遂に綺麗なホットケーキを完成させる。最後は形が不揃いなホットケーキを「でも美味しい」と笑いながら食べておしまいというお話

 

考察

この話を傑作に選ぶ人は少ないかもしれない。

話の内容としてはよつばがはじめてのホットケーキを作ってみるという平凡な体験だが、私は眼尻に涙を浮かべ唇をわなわなと震わせながらページをめくっていた。

生きていくうえで失敗はつきものである。誰だって最初は初めてで、最初から上手に事をこなせる人間は一握りである。

そして人間が恐れるのが失敗することではなく、その失敗を誰かに嘲笑されることだ。それが新たな行動の種の足かせとなっている。だから私たちは1つの失敗ですぐに方向転換を模索し匙を投げる。

嘲笑する「やんだ」を嫌な奴と捉えてしまいたくなるが、それが人間の腹の底である。

ホットケーキをひっくり返すことに成功して喜びの笑みを浮かべるよつば見ていると「最後に自分が失敗しても最後までやり抜いたことは何だろう」と考えて自然と涙が頬を伝った。

何度も失敗をしてきたオトナだからこそ刺さるものがある話だ。

 

12巻「よつばとキャンプ」

 

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車で遠征してテント拍のキャンプに行くお話、よつばとの中では1大イベントな方。

最終ページの尋常ではないほどの哀愁漂うよつばの姿にファンは「ここで最終回でも良かった」「よつば死ぬんじゃねか?」といた声も上がる。

 

考察

朝焼けの背景を見開き1ページで使うなどよつばとの真骨頂が垣間見えるこの話。話の全体を通して抜け目がない完成度だが特に最終ページはとてつもない破壊力を誇り、「今日は何して遊ぶ?」というセリフ・よつばがみんなと読者に呼びかけるようなアングル(よつばとにしては珍しいカメラ目線)とノスタルジックな背景・何よりそのコマが最終ページであることが読者をすさまじいセンチメンタルに突き落とす。楽しい時間はあっという間、すぐに終わりを迎えてしまう遊園地の帰り道のようなあの「あーあ」といった感じをコミックの表現で身体から呼び起すのは恐ろしいと言うほかないだろう。個人的には最終ページから1つ前のページの6コマの使い方が本当に秀逸であると感じた。ファンである私でさえこの話が最終回でもいいと思えるくらいの話だ。

 

 

よつばと最後に

私は将来引っ越したり家庭を持ったりといろいろな環境の変化があると思うが、このマンガだけは一生手放すことは無いだろう。万が一手放しても買いなおす。そしてこれ以上の漫画がこの先現れることは無いと断言することが出来る。

私の思うよつばと最大の魅力は「ふらっと中途半端な巻数を適当に読んでも楽しめる」というところである。たいていの漫画は1続きになっており、前後の脈絡が非常に重要になってくる。なので新章の始まる節目から読み進めるのがベターになるが、よつばとはほぼ1話完結なためどこから読んでもいい。「仕事一区切りついたし息抜きするか」と6巻を取り出しでパラパラと読むのだ。まあこの場合における欠点は1度読みだすと止まらなくなり2時間後にはデスクによつばとが平積みされることであるが。

よつばと面白いの?どんな話?よくそう言った詰問を受けるがすべての作品にシナリオを求める姿勢はナンセンスである。

この作品の楽しむべきは雰囲もしくは作品としての質、やりとりの小気味よさである。

楽しみ方としては「考えるな」秀逸なアングルと背景描写、表情豊かなキャラから感情を読み取り世界観に酔いしれろ。

会話のキレ味に声を出して笑い、よつばの微笑ましい言動に頬を緩め、よつばに自己を投影しセンチメンタルに浸ればよい。

 

よつばとは子供嫌いだった私が子供を欲するようになるくらい影響を与えた作品である。あずまきよひこさん並びに制作にかかわった方全てに感謝したい。

 

 

参照

よつばと!wikipedia 2018年12月6日

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%88%E3%81%A4%E3%81%B0%E3%81%A8!

 

とつばスタジオ HP 2018年12月6日

http://yotuba.com/

 

よつばと!1巻2003年8月27日

よつばと!2巻2004年4月27日

よつばと!3巻2004年11月27日

よつばと!4巻2005年8月27日

よつばと!5巻2006年4月27日

よつばと!6巻2006年12月27日

よつばと!7巻2007年9月27日

よつばと!8巻2008年8月27日

よつばと!9巻 2009年11月27日

よつばと!10巻2010年11月27日

よつばと!11巻2011年11月26日

よつばと!12巻2013年3月9日

よつばと!13巻2015年11月27日

よつばと!14巻2018年4月28日

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